雑誌屋と睡眠不足と儲かる仕組み

今のようなネット暮らしになる前は雑誌屋なるものを長年やっていたので、(つねに限られた時間内で原稿を集める仕事を行ってきていて)とにかく若者を安く無理させてこき使って儲かるみたいなビジネスモデルの中で疲弊していったわけで、今考えると後悔もありますね。というのは単純に、疲弊の中で記憶力とか低下していくわけですよ。

僕なんかは、ものすごく商売がうまくいっていた時期があったのですが、そのため忙しくてまったく帰れませんでした。マジで都合10年くらいは床に段ボールで寝ていたでしょうか。

本というのは〆切があり、印刷屋さんの印刷搬入の時間は決まっているので、当然物理的なタイムリミットというものがありますから、それのためには、最後は1日3時間睡眠が1週間続く、最後は1時間睡眠、とかいうことも平気でありましたし、平均して2、いや月3週間は会社に泊まるとかが当たり前でした。

ブラックもブラック、でしたが、その理由は、他の会社に比べて1/3の予算で作っていたからなのですね。

たとえばAという出版が1100万円余りで作っていたら、こちらは350万で作る、ということです。予算を減らす、ということは、他の予算が潤沢なところなら外注すべきところを自分とこでやったりして、それで見栄えをなんとか他社とあわせていたわけです。デザインとか、写真とか。DTPとか。2本撮りとか。流用前提で3冊回すとか。なぜか異業種のテレビ東京にシンパシーを感じるのは、東京12チャンネル時代の「少ない予算で大きな企画」というのと「予算が他局の1/3」という条件が同じだったからかもしれません。

編集者の賃金も抑えられていました。いま聞くと(本来算出根拠とすべき)東京都の平均ではなく、全国平均をとって給与を出していたからだと言われています。当然東京基準で出せば「日本一高く」なるはずですが、地方全体をベースに出す場合、家賃も生活費も安かったり親元だったりして、当然ながら圧倒的に平均給料が安くなるのでしょう。その平均で出せば「儲かる」。さらに基本給は抑えに抑えて、手当で全体を水増しして、それでもなんとかふつうのアルバイトくらいの賃金になるくらいでしょうか。

紙代も、バブル期はチリ紙のような安い、チラシに使う再生コート紙ばかりを手配されていましたし(おかげで銘柄には詳しくなり、だいぶ指定して厚くしていきましたが)。印刷校正もひどくて、文字修正は(デジタルになる前でも)写植ですらなくコピーのときもあり、さらに修正は現場で印刷会社の営業が自身で削ったりしています。場合によっては部数が30万部ある雑誌であっても、表紙の女性の肌が緑色であってもそのまま一発製版で発売になってしまう、というような状態でした。

だから、仕事場は、最大限に儲かっていました。

そのかわり、分け隔てなくどんな人でも働けました。高卒も中卒(大検受験)も。外国籍の人も。安い労働力、というのは基本的に敗者復活戦みたいなものなので、逆に(下克上狙いの人などは)ちゃんと働くのです。会社も激しく儲かるから、僕への労働的な問題(家に帰らない等)の部分については、そこまできついことは言ってきませんでした。

そんな最低な労働環境でそれでも続いたのはひとえにわたしのような企画をして商品が売れていた若者には編集費というものを預けて、裁量があったからです。自由に使える(ただし事前承認なしで使えるのは1件の出費は数万円まで)のが、実際は月何百万とあったことが楽しかったんでしょうね。多いときは千万単位が自分の裁量下にありました(それでも「衣装」に40万使うと責められましたが)。

あと、期限のある仕事っていうのはなぜかドーパミン(快感物質)が出るんですね。間に合わせる快感、そんなものにすべてを預けていたというのは今思うとバカみたいです。その間に本でも読んでいたほうがずっといいでしょう。

僕がずっとそれを仕事にしてきたのは、はたから見ればいわゆる「やりがい搾取」、というやつに嵌められていた、という状況です。クリエィティブは心から湧いてくるときにやるのはいいんですが、あんまり無理にクリエィティブ商売をするものではありません。

若いときからずっと寝てこなかった結果どうなったかというと、まあ一時期は精神を病んでおりました。

そして、さっきも言いましたが、おかげで今はかなり記憶が曖昧というか、数日前のことでも覚えてない場合もあるという…。これは絶対に労災レベルなんだけどいまさら証拠もないですからね。しょうがないのです。それでも、面白い体験をものすごくさせてもらえた、という意味では、雑誌屋そのものだった時代を感謝しています。

ゲスな仕事をしているとはいっても、いろんな人と渡り合うことが出来たわけで。

ですが、今(ネットにずっぽり)のほうがまだ楽しかったりするんですよね。

ネットって利益を見込んでも、当然検索依存なので、思ったようにはいくまで半年はかかりますよね。

思う通りに行かないという部分と、大企業バックでお金を使おうが個人運営で使うまいが、見栄えや結果は同じようについてくるというところとか。成功するか失敗するかは、上流からの誘導路があるかどうか、それだけ。あとは個人プレイでも知識だけだだいぶ変わってくるところ、有る程度の結果(コンバージョン)は確率で予測できるところ。

好きですね。

こっちのほうが性に合ってるかなあーと思うのです。

もちろん、ネットは、よほど収益源を大きくしないと、基本的には個人の生活が賄える程度の利益なわけで…ちゃんと会社が成り立つくらいの利益を上げるならまだ(配本すれば入金がはっきり見込める)従来メディアのほうがいいわけですけど、たとえば(出版社の)光文社がdマガジンの利益をそれなりに当て込んでるくらいには従来メディアの収益なんて崩れてきているわけで…。

紙なんて中規模取次も弱ったりつぶれたりして、コンビニもPOS悪化で入荷を絞り始めたりして、入れ込めばなんとかなった採算モデルが崩壊してきてますしね。

いずれにせよ、従来型メディアの方法論が通じるのもあと2年くらいではないかと思っています。そのあとですが、まだこれという理論が見いだせないままなのですよね。


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